ワーニャ

東京演劇アンサンブル創立50周年記念公演Ⅲ
チェーホフ没後一〇〇年記念フェスティバル参加

アントン・チェーホフ／作　牧原純／訳　広渡常敏／演出

ワーニャ伯父さん

『日本の気象』を終え、来年には『林檎園日記』の上演を控えるTEEが、
『かもめ』に挑戦しつづけてきたTEEが、
創立50周年で『ワーニャ伯父さん』初演

高岩震撮影の舞台写真とアンケートのページ

2004.10.1fri.～10sun.　

ブレヒトの芝居小屋

(西武新宿線武蔵関)

　終演しました。

■開演　平日19時／土日14時　

■料金　5000円　前売(一般)4500円　前売(学生)3500円　

4日19時のみハーフチケット2500円(劇団のみ取扱)　8日は貸切　

■前売　チケットぴあ0570-02-9999　

東京演劇アンサンブル03-3920-5232　

■全席自由　申込み順に整理番号発行　

■協賛　ケンタウルスの会　

■助成　日本芸術文化振興基金　芸術文化振興事業

■スタッフ　

作…アントン・チェーホフ　訳…牧原純　演出…広渡常敏

音楽…林光　装置…岡島茂夫　照明…大鷲良一　衣裳…加納豊美　

効果…田村悳　宣伝美術…スズキコージ　舞台監督…佐藤慎一郎　

制作…太田昭　制作助手…小森明子　辻尾隆子

■キャスト

セレブリャコーフ・アレクサンドル・ウラジーミロヴィチ　退職した大学教授
伊藤　　克

エレーナ・アンドレーエヴナ　その妻
久我あゆみ

ソーフィア・アレクサンドロヴナ (ソーニャ)　その先妻の娘
原口久美子

ヴォイニーツカヤ・マリーヤ・ワシリーエヴナ　三等文官未亡人、教授先妻の母
志賀　澤子

ヴォイニツキー・イワン・ペトローヴィチ (ワーニャ)　その息子
松下　重人

アーストロフ・ミハイル・リヴォーヴィチ　医師
公家　義徳

チェレーギン・イリヤー・イリイチ　没落した貴族
入江　洋佑

マリーナ　年老いた乳母
羽鳥　　桂

下男
浅井　純彦

■上演にあたって

東京演劇アンサンブル創立50周年記念の『日本の気象』、『グスコーブドリの伝記』の公演を終えてチェーホフに取り組む。俳優座養成所三期生によるチェーホフ研究会から始まった東京演劇アンサンブルだが、それは『かもめ』への挑戦だった。今回、チェーホフ没後百年記念のフェスティバルにも参加して、ロシアのマールイ劇場の『三人姉妹』『かもめ』と並んで公演することにもなった『ワーニャ伯父さん』。ＴＥＥにとっての初演。広渡常敏とＴＥＥの真価が問われる大作。

土を使った円形舞台での上演。劇場はブレヒトの芝居小屋。『かもめ』でペレストロイカ直後のロシア演劇界に大きな影響を与えた広渡常敏が、同じ円形の空間での上演を企画。１９９６年のモスクワでの『かもめ』公演の際、スタニスラフスキーセンター館長からの「ぜひ、チェーホフの違う作品も舞台化してほしい」という強い要望に、今回やっと応えることができる。翻訳は牧原純さんに新訳を依頼。

太くて長もちを是とする保守的で鈍重な現実をぶち破ろうとするワーニャ。アーストロフの誘いに「一生に一度」身を任せてみようと思うエレーナ。ヴ・ナロードを心に農村にやってきた医師アーストロフも多忙な生活とウォトカに疲弊し、一人純粋なソーニャはアーストロフに恋焦がれ、破れる。純粋な憧れが目の前で音をたてて崩れていく絶望感、それをすべてひっくり返そうとするワーニャとエレーナ。しかし暗く鈍重な現実が覆いかぶさる。

１８６０年の農奴解放、１８７０年代にはナロードニキ運動が盛り上がるロシア。理想主義に目覚めたインテリたちが、農村に入り実地に生きることを始めた。ワーニャもアーストロフもその時代を生きた。打てど響かない農民と過酷な弾圧に打ちひしがれた若者たち。そして没落する貴族。この泥沼と化したロシアの革命前夜を生きたチェーホフと登場人物たちは、まさに現代を生きており、現代を苦悩しており、現代を動かそうとしている。

いま、日本のこの時流に抵抗する文化を求め、創りつづけようとする広渡常敏と東京演劇アンサンブルにとって、チェーホフの抵抗と行動と創作は今更ながら私たちの目を拓くものである。作品と時代とは非常に今日的である。チェーホフの影響の大きい久保栄の『林檎園日記』との対比も混ぜながら、劇団の仕事が始まっている。

■ものがたり

ワーニャは、亡き父の領地である農園を二十五年間切り盛りしながら、都会で暮らす妹夫婦に仕送りを続けてきた。妹の夫はモスクワの大学教授。このセレブリャコーフの芸術論を信じて彼を偶像化し献身していたワーニャとその家族。

教授は退職して後妻のエレーナを伴ってワーニャとソーニャのもとにやってくる。しかし、ワーニャが信じた教授は凡人であり、若く美しいエレーナはその華やかさも魅力もすべてふいにして老教授に仕えていた。「無能で俗物」という現実に青春をささげた自分自身にワーニャは絶望する。

農園の暮らしは一変した。ワーニャは昼近くなって起き出し、酒を飲む。十一年間ひたすら貧しい農民の医療と、美しい森の再生を夢見て献身をつづけた医師アーストロフも、診療を放り出してこの屋敷に入り浸っている。美しいエレーナに心をかき乱される二人の男。ペテルブルクの音楽大学を出たエレーナだが、ピアノはうるさいと弾くことも許されず、痛風だ、リューマチだ、と騒ぐ老教授に縛られている。若さも可能性ももぎ取られたエレーナの憂鬱が、人々のそれぞれの心を反映している。

ソーニャは心に秘めていたアーストロフへの恋を、そっと義理の母エレーナに打ち明ける。エレーナはそれをアーストロフに告げる。しかしアーストロフはエレーナに口づけをし、密会を約束する。それをワーニャは目撃する。そんな折に教授は、この農園を売り払い、エレーナとふたりの安らかな老後をフィンランドで送ると宣告する。ワーニャはピストルで教授を狙う。自分の献身はなんだったのか、自分の人生は何のためにあったのか……。

教授は逃げるように都会へ戻る。エレーナもアーストロフへの熱情を自分から引き剥がすように教授に従う。再び仕事を始めたワーニャにソーニャは語りかける。「わたしたち生きていきましょうね……。」

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