演出家 広渡常敏

広渡 常敏 (ひろわたり つねとし) Hirowatari Tsunetoshi

hirowatari

 東京のはずれ、練馬の武蔵関にある自前の小劇場を「ブレヒトの芝居小屋」と名付け、演劇の核心に向かう仕事をつづけている、東京演劇アンサンブルのリーダー。

 敗戦直後の東京に、福岡での学生演劇を経て上京、戦後民主主義の混沌とした自由な雰囲気をもった新劇に飛び込み、スタニスラフスキー、ブレヒトを学ぶ研究会の中心となり、以来劇団三期会・東京演劇アンサンブルの演出家として46年、現役の演出家として最古参でありながら、その若々しい活動はさらに輝きを増している。

 稽古場の広渡が俳優に要求することは、役の説明的表現ではなく、役に向かいあう俳優本人の存在そのものである。役者にねばり強く求め、待ち続ける演出家・広渡との稽古場での時間が、俳優を変化させる。このことを稽古場はどの芝居に際しても求め続けている。そのディテールの総和が全体以上のものにふくらむ。このような稽古場から、演劇の魅力の本質に関わろうとする集団が育ってきた。

 広渡の目の前で、世界の前衛的な試みは次々と音をたてて崩れてきた。だが広渡は、周りを取り巻く絶望的な状況の中で、演劇に賭けた理想をあきらめずに追いつづけている。

 その広渡が21世紀にむけて書き下ろした新作は、人間にわずかに残された自由な地点を求めた力作である。広渡の信頼する若い役者たちとともに、新たな試みをはじめようとしている。

作・演出作品

作品名 担当 上演年
明日を紡ぐ娘たち 集団創作/演出 1957
長い夜の記録 集団創作/演出 1961
夜の空を翔ける 作/演出 1980
野の涯 作/演出
鳥の女 作/演出 1993
蜃気楼の見える町link 作/演出 2000
音楽劇 消えた海賊link 作/演出 2001
ヒロシマの夜打つ太鼓link 作/演出 2003
昔話 ふくまの又ぜlink 作/演出 2006

脚本・演出作品

作品名 原作者 上演年
海鳴りの底から 堀田善衛 1963/2001
桜の森の満開の下link 坂口安吾 1966/1986/1990/1999/2003〜
檀一雄 1966
グスコー・ブドリの伝記link 宮沢賢治 1968/2003〜
奇蹟の人−ものには名前がある ギブソン 1971〜
こぶたのかくれんぼ 小沢正 1972/1996
ジョー・ヒル スティヴィス 1972/1988
走れメロスlink 太宰治 1976〜
木かげの家の小人たち いぬいとみこ 1977 (初演は牛島孝之と共作)
目をさませトラゴロウlink 小沢正 1979/1990/2003〜
名探偵カッレとスパイ団link リンドグレーン 1981/2001
銀河鉄道の夜link 宮沢賢治 1982〜
はてしない物語 エンデ 1984
竹やぶのトラゴロウ 小沢正 1985
オペラちゅうたのくうそう 小沢正 1986
ふしぎなふしぎなカード ブリトゥン 1990
風の又三郎link 宮沢賢治 1994/2003〜
真実の学校 高井有一 1994
さとしとあきらのぼうけん 古田足日/田畑精一 1997
音楽劇 ちゅうたのくうそうlink 小沢正 1998〜
おじいちゃんの口笛link ウルフ・スタルク 1999〜

演出作品

公演名 作者 上演年
恭しき娼婦 サルトル 1958
カルラールのおかみさんの銃 ブレヒト 1958
土曜日を待つ人々 アンダーソン 1959
第三帝国の恐怖と貧困 ブレヒト 1960/1971/1973
太陽の中の娘たち ヴァロージン 1961
母−おふくろ ブレヒト 1964
愛と死との戯れ ロマン・ロラン 1966
蛙昇天 木下順二 1967
四番目の男 シーモノフ 1968
秩父困民党 村山知義脚本 1969
リンゴの花咲く町 小田健也脚本 1969
ガリレオ・ガリレイの生涯link ブレヒト 1970/1977/1986/1999/2006
コミューンの日々 ブレヒト 1971/1978/1990
真夏の夜の夢 シェイクスピア 1972/1993
かもめ チェーホフ 1973/1980/1987/1991/1993
オットーと呼ばれる日本人 木下順二 1974
かれら自身の黄金の都市 ウェスカー 1975/1986
はだかの王さま 熊井宏之脚本 1980
セチュアンの善人link ブレヒト 1981/1998/2006〜
ピノッキオのぼうけん 村山亜土脚本 1981
男は男だ ブレヒト 1982
都会のジャングル ブレヒト 1983
トランプの国 ミハルコフ 1984/1987
わが魂は輝く水なり 清水邦夫 1987
思い出のブライトン・ビーチ ニール・サイモン 1988
四つの肖像 ウェスカー 1988/1989
古い玩具 岸田国士 1988
チロルの秋 岸田国士 1988
村で一番の栗の木 岸田国士 1988
驟雨 岸田国士 1988
命を弄ぶ男ふたり 岸田国士 1988
明日は天気 岸田国士 1988
沢氏の二人娘 岸田国士 1988
テンペスト シェイクスピア 1989
セーヌ川の身元不明の女 ホルヴァート 1989/2001
恋愛恐怖病 岸田国士 1989/1998
留守 岸田国士 1989
是名優也哉 岸田国士 1989
ある学会報告 カフカ 1989
コーカサスの白墨の輪link ブレヒト 1990/2001
ティレシアスの乳房 アポリネール 1991
アルフレッドとヴィクトリア フリード 1991
幻燈辻馬車 福田善之脚本 1992
ハムレット シェイクスピア 1992
ぼくの鳥あげる いずみ凛脚本 1993
風浪 木下順二 1994
エレベーターの鍵 クリストフ 1995
沖縄 木下順二 1995
クラップの最後のテープ ベケット 1996
芝居 ベケット 1996
魔子とルイズ 山内久・立原りゅう脚本 1997
おんにょろ盛衰記 木下順二 1997
肝っ玉おっ母とその子供たち ブレヒト/謝名元慶福脚本 1998
赦せない行為 森本薫 1998
ゲド戦記 平石耕一脚本 2000
食卓のない家 志賀澤子脚本 2001
常陸坊海尊link 秋元松代 2002
日本の気象link 久保栄 2004
林檎園日記link 久保栄 2005

劇作作品

作品名 演出
海の五十二万石
-玄海 あたらしい海-link
志賀澤子演出 2006(1980作)

海外公演実績

公演名 年/国 劇場
桜の森の満開の下 1990/アメリカ ニューヨーク/ラ・ママ アネックス
1991/韓国 ソウル/文芸劇場
かもめ 1993/ロシア モスクワ/チェーホフ記念モスクワ芸術座
タガンローグ/チェーホフ記念劇場
沖縄 1996/ベトナム ハノイ/ハノイ青年劇場
ホーチミン/ホーチミン市立劇場
1996/イタリア ジェノヴァ/テアトロ・デラ・トッセ
ローマ/テアトロ・ヴァシェロ
桜の森の満開の下 1999/ロシア ウラン・ウデ/国立オペラ・バレエ劇場
1999/英国 ロンドン/BAC
走れメロス 2003/韓国 ソウル/建国大学新千年記念館
光州/五・一八記念文化センター
釜山/乙淑島文化會館
桜の森の満開の下 2005年/英国 ベルファスト/ウォーターフロントホール
2005年/アイルランド ダブリン/ベケットシアター
コーク/グラナリーシアター
銀河鉄道の夜 2005年/韓国 ソウル/文化日報ホール
抱川/半月ホール
ガリレイの生涯 2006年/ドイツ ベルリン/ベルリナー・アンサンブル

著作

書名 出版社 発行年 価格
稽古場の手帖
  ブレヒトの芝居小屋からの報告
三一書房 1977年 \1575(絶版)
夜の空を翔ける―広渡常敏戯曲集 三一書房 1981年 \2100(絶版)
<戯曲>銀河鉄道の夜link 新水社 1996年 \1223
ナイーヴな世界へ
  ブレヒトの芝居小屋 稽古場の手帖link
影書房 2003 \2625
ヒロシマの夜打つ太鼓 広渡常敏戯曲集link 影書房 2005年 \2100