広渡常敏(ひろわたり・つねとし)

東京のはずれ、練馬の武蔵関にある自前の小劇場を「ブレヒトの芝居小屋」と名付け、演劇の核心に向かう仕事をつづけている、東京演劇アンサンブルのリーダー。

敗戦直後の東京に、福岡での学生演劇を経て上京、戦後民主主義の混沌とした自由な雰囲気をもった新劇に飛び込み、スタニスラフスキー、ブレヒトを学ぶ研究会の中心となり、以来劇団三期会・東京演劇アンサンブルの演出家として46年、現役の演出家として最古参でありながら、その若々しい活動はさらに輝きを増している。

稽古場の広渡が俳優に要求することは、役の説明的表現ではなく、役に向かいあう俳優本人の存在そのものである。役者にねばり強く求め、待ち続ける演出家・広渡との稽古場での時間が、俳優を変化させる。このことを稽古場はどの芝居に際しても求め続けている。そのディテールの総和が全体以上のものにふくらむ。このような稽古場から、演劇の魅力の本質に関わろうとする集団が育ってきた。

広渡の目の前で、世界の前衛的な試みは次々と音をたてて崩れてきた。だが広渡は、周りを取り巻く絶望的な状況の中で、演劇に賭けた理想をあきらめずに追いつづけている。

その広渡が21世紀にむけて書き下ろした新作は、人間にわずかに残された自由な地点を求めた力作である。広渡の信頼する若い役者たちとともに、新たな試みをはじめようとしている。