ヒロシマ

東京演劇アンサンブル公演

広渡常敏書下ろし

ヒロシマの夜打つ太鼓

広渡常敏＝作･演出　林光＝音楽

〈ヒロシマ〉といえば
〈ああ　ヒロシマ〉と
やさしくこたえがかえって来るためには
わたしたちは
わたしたちの汚れた手を
きよめねばならない

――栗原貞子「ヒロシマというとき」より

かつて軍港であった宇品に、五郎七の営む小さなうどん屋がある。そこに集まる太鼓たたきの仲間たち。若い六郎太、音楽教師の葉子、カキの養殖をしている新吉、自動車修理工の良平、五郎七の孫の加奈子たちが、ナショナリズムにとりこまれない祝祭の太鼓を模索している。

昔を懐かしむ不思議な男が現れる。彼はピカによって影を失くした男だった。影は地上で歳をとり、男は死んだ当時のままヒロシマに出没する。そして出会ったふたり。

葉子は君が代の伴奏を拒んで退職し、フリースクールの山村に出会う。山村は風野保育園がこどもたちの解放区だと紹介する。宇品哲学、宇品解放区、自分自身の中に祝祭をつくりだそうと、六郎太たちが太鼓を打ち鳴らす。夜空には流星群が流れていく･･････。

広島の自立劇団月旺会との交流、いなほ保育園との出会いが生み出した、広渡常敏の書き下ろし作品。

　2003.8.29(金)～9.6(土) ブレヒトの芝居小屋

西武新宿線･武蔵関駅北口より6分

■開　　演　19時　土日は14時のみ
2日は休演　１日19時はハーフチケット2500円(劇団のみ取扱い)
■入場料　当日5000円　前売(一般)4500円　前売(学生)3500円
■全席自由　開場は開演の30分前より、チケット番号順のご入場となります。
チケット番号は申込み順に発行。
■前　　売　チケットぴあ0570-02-9999　劇団事務所03-3920-5232　
■協　　賛　ケンタウルスの会

東京演劇アンサンブル

〒177-0051　東京都練馬区関町北4-35-17
tel-03-3920-5232 fax:03-3920-4433
e-mail:tee@tee.co.jp http://www.tee.co.jp

■スタッフ

作･演出…広渡常敏

音楽…林光

装置…岡島茂夫舞踊…西田堯照明…大鷲良一効果…田村悳太鼓指導…星いさな

衣裳…清野佳苗舞台監督…佐藤慎一郎制作…太田昭　小森明子

■キャスト

男―――――――松下　重人　(原爆で死んだ男)

影―――――――深山　忠昭　(その影・地上に焼き付けられた)

六郎太―――――白石那由他　(太鼓のメンバー)

良平――――――浅井　純彦　(太鼓のメンバー・自動車修理工)

新吉――――――三木　元太　(太鼓のメンバー・漁師)

五郎七―――――伊藤　　克　(宇品のうどん屋の主人)

加奈子―――――清水　優華　(その孫・太鼓のメンバー)

葉子――――――久我あゆみ　(太鼓のメンバー・音楽の教師)

山村――――――公家　義徳　(フリースクール『漂蕩庵』主宰)

寿美――――――志賀　澤子　(風野保育園園長)

耕治――――――入江　洋佑　(その夫)

■上演にあたって

広渡常敏が広島の自立劇団との交流から7年かけて書き下ろした新作が『ヒロシマの夜打つ太鼓』である。

ヒロシマは世界初の原爆の被害都市であり、世界の反核の中心であり、平和運動の象徴である。しかし同時に中国大陸への侵略の軍港のある加害都市でもあった。いま日本は、平和憲法を改悪し、軍隊を公認し、戦争のできる国になろうとしている。そして人々の心の中に国家が押し入ろうとしている。この流れを変えることができる力は何だろう。うどん屋に集まり、太鼓の稽古をしている仲間は「太鼓は軍国主義復活の戦意高揚にもなる。俺たちは民衆の祝祭の太鼓をたたくんだ。」と語りあう。

広渡常敏には『鳥の女』以後、2000年『蜃気楼の見える町』、2001年『海鳴りの底から』(脚色)、2002年『消えた海賊』(都フェス合同公演)という、書き下ろし・脚色作品がある。変革のエネルギーを求める市井の人々を描き、個々の戦いが閉塞した絶望的な「世の中」に風穴を開けるのだと繰り返し語ってきた。

広渡常敏の作･演出作品では特に、役者自身の問題意識がそのまま問われ舞台に晒される。技術や「役を創る」という地点から遠くかけ離れた演技論が要求されている。この『ヒロシマの夜打つ太鼓』での太鼓を叩くことについての技術論争は、まさに演劇論そのものである。更に戦争中の移動演劇への反省も込められている。最近出版された広渡の著作『ナイーヴな世界へ』が演劇として集約されたと思われる作品だ。創立50周年を目前にした東京演劇アンサンブルの、現在のユニークな魅力が輝くはずである。

■ものがたり

宇品の波止場に五郎七が営む小さなうどん屋がある。そこに太鼓を叩く若いメンバーが集まっている。ある日一人の男がふらっと現れて軍歌を歌い、戦争中の広島のことを語って去っていく。この男の出現で、皆の話題は歴史修正主義、日の丸・君が代の強制へと移っていく。教師の葉子はいま君が代の演奏を強要されているが、「給料のためだったら何をやってもいいの？」と学校との決別を決める。

うどん屋に現れた不審な男は、原爆で影を焼き付けられたまま影を失くした男だった。影との再会。男は死に、影は現世で歳をとった。彼は新劇俳優だった。お国のために、と移動演劇で公演し、農民に「騙されんぞ！」と言われたことを思う。そして「俺たちは犬死だった」ことをかみしめる。影は言う、「ピカは差別せんかったが生き残った人間は、やっぱり、差別に苦しむ。」

心を決めた葉子はフリースクールを主宰する山村を五郎七ともに訪ねる。一切の体制から自由なフラヌールの生き方を理想とする山村に、五郎七は自分の夢見た革命と現在の宇品解放区について語る。太鼓の話から労組の運動まで話が及ぶ中、こどもたちのなかに祝祭をつくりだしている保育園「風野保育園」が紹介される。園長の寿美は、そこに太鼓を持ち込もうというのだ。

太田川の河川敷で、太鼓を叩きながら語る人々。すぐにナショナリズムにとりこまれていく太鼓を、自分たちの祝祭の太鼓として模索する若者たち、こどもの魂の中に世の中にうち克ってゆける信念をつくりだしたいという寿美。太鼓の音の中、空には流星群が流れていく……。

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